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学習法 (更新: 2026年10月14日)

英単語を何周しても覚えられないのはなぜか——周回学習の構造と、周を数えない回し方

単語帳を3周したのに、模試で出てきた単語が思い出せない。5周した人の話を聞いて、自分の周回数が足りないのかと不安になる。「何周すれば覚えられるのか」は、単語帳で勉強する人が必ずどこかでぶつかる問いです。

結論から書きます。何周で覚えられるかに、一般解はありません。 そして覚えられない原因は、たいてい周の数ではなく、1周の中身と周の間隔にあります。3周で覚える人と10周しても覚えられない人の差は、回数ではなく回し方です。

この記事では、周回学習が構造的に苦手なことを3つに分けて説明し、そのうえで「周を数えるのをやめる」という回し方を、間隔反復を実装した立場から書きます。

周回学習が構造的に苦手なこと

単語帳を頭から最後まで通して、また頭に戻る。この回し方には、努力と関係なく効率を下げる構造が3つ埋まっています。

1. 「見る」だけの周になりやすい

周回のスピードを上げようとすると、単語と意味を目で追う作業になりがちです。ところが、見て「知っている」と感じることと、自力で思い出せることは別の能力です。見て分かるのは再認、白紙から取り出すのが再生で、試験や会話が要求するのは後者です。この違いは選択肢で解けるのに書けない現象の記事で詳しく書きました。

見る周回を何周重ねても、鍛えているのは「見たことがある」という感覚のほうです。周回数が増えるほど誌面に見覚えが増えるので、覚えた気持ちだけが育っていきます。 何周しても覚えられない、の正体の大部分はこれです。

2. 間隔が単語ごとに合わない

忘れるスピードは単語ごとに違います。1回で覚わる単語もあれば、10回出会っても抜ける単語もある。ところが周回は全部の単語を同じ頻度で再訪する仕組みなので、簡単な単語には早すぎ、苦手な単語には遅すぎる、という不一致が必ず起きます。

復習の間隔が記憶の定着を左右することは、間隔反復の設計の記事で書いたとおりです。周回学習は、この間隔を「単語帳1冊ぶんの周期」という1つの値に固定してしまっている、と言い換えられます。

3. 覚えた単語に時間を食われ続ける

1周目で覚えた単語も、10周目でまだ怪しい単語も、周回では同じ1回として通過します。つまり周が進んでも1周のコストがほとんど減りません。学習が進むほど「もう覚えた単語をめくる時間」の割合が増え、本当に時間を使うべき苦手な単語に届く頃には集中力が切れている——周回の後半で伸びが鈍る理由です。

それでも紙の単語帳で回すなら

周回学習そのものが悪いわけではありません。構造的な弱点を手作業で塞ぐことはできます。

  1. 隠して、自分で言えるかを試す。 意味の側を手で隠し、口に出してから確認します。これだけで「見る周回」が「思い出す周回」に変わります。思い出す練習は、10の学習法を格付けした Dunlosky ら(2013)のレビューで最高評価を得た2つのうちの1つです(格付けの全体は学習法の格付け研究の記事にまとめています)。試す向きは意味だけにしないでください。 綴りを見て読めることと、音から意味が出ることは別の能力で、目で追う周回では後者が一度も試されません。声に出してから意味を言う形にすると、同じ1周で両方を点検できます。
  2. 覚えた単語に印を付けて、次の周から外す。 周が進むほど1周が軽くなり、時間が苦手な単語に集中します。
  3. 周と周の間隔を空ける。 その日のうちに2周目に入るより、翌日・数日後に回すほうが、同じ回数でも定着が変わります。

実はこの3つを突き詰めた形が、カードを箱で管理するライトナーシステムです。覚えた単語は再訪の間隔が伸び、間違えた単語は最初の箱に戻って頻繁に出る。「周」という単位を捨てて、単語ごとに周期を変える——周回学習の改善の行き着く先が、間隔反復と呼ばれる仕組みです。

私たちの実装では——「今日の分」だけが出てくる

RepeCa は、この仕組みをそのまま実装しています。カードごとに次に出す日が決まっていて、アプリを開くと今日が期限のカードだけが出てきます。覚えているカードは間隔が伸びて視界から消えていき、間違えたカードは最初のレベルに戻って翌日また出てくる。

使っている側の感覚で言うと、周回が消えます。「いま何周目か」「今日はどこからどこまでやるか」を考える必要がなく、開いたら今日の分を終えるだけです。1日に入れる新しい単語の数と、数か月後の復習量の関係は負荷の計算の記事で実際に数字を出しています。

正直に書いておくと、この方式にも向き不向きがあります。試験前日に全範囲をざっと見直したい、という使い方は周回のほうが向いています。間隔反復は「毎日少しずつ、長期間」の道具であって、直前の一夜漬けの道具ではありません。読み上げの機能も持っていないので、音から引く練習をするなら、音は自分の口で出す前提です。

周の数の代わりに、何を見れば進んでいると分かるのか

周を数えるのをやめると、「3周した」という達成感の代わりになる物差しが要ります。見るのは残りの枚数ではなく、カードのレベルの分布です。

RepeCa の統計には「習熟度(レベル別カード数)」という節があり、Lv.1(未定着)から Lv.5(定着)まで何枚ずつあるかが出ます。レベルは次に出すまでの間隔と結びついていて、上がるほど再訪が 1日 → 3日 → 1週間 → 2週間 → 1か月と伸びます。つまり「Lv.4 以上が何枚あるか」は、その単語たちに今後どれだけ手がかからないかまで含んだ数字です。「3周した」は、この問いに何も答えられません。

もう1つの違いは、この物差しは下がることです。周回数は一度増えたら減りませんが、レベルは「まだ」と答えた時点で Lv.1 に戻ります。だから分布の左側(Lv.1〜2)が厚いままなら、周を増やしても同じところを回り続けているという事実が、そのまま数字に出ます。

苦手な単語のほうは枚数で見ます。正答率で絞るときだけは、累計3回以上採点したカードを対象にします——1回間違えただけの単語を「正答率0%」として混ぜると、始めたばかりの単語で一覧が埋まり、本当に手を入れるべき単語が見えなくなるからです。一方で連続して2回以上間違えたカードは、採点回数を問わず苦手に数えます。連続ミスは回数そのものが意味を持つからです。

正直に書くと、通算の正答率は数字として画面に出していません。正答率で様子を見たいときは分析の推移を見てください(練習したぶんは除いて計算しています)。

よくある質問

Q: 1日に何周もするのは効果があるのか

同じ日のうちに繰り返す回数を増やすより、翌日以降に間隔を空けて再訪するほうが定着します(254件の研究を統合した Cepeda ら(2006)のメタ分析が示す分散効果)。詰めて反復した直後は覚えた感覚が強く出るのですが、その感覚は数日後の成績を予測しません。1日3周するくらいなら、1周を3日に分ける——分散の効果の詳細は学習法の格付け研究の記事を参照してください。

Q: 何周しても覚えられない単語は、どうすればいいのか

回数を増やす前に、カードの側を疑ってください。似た単語と混同している(干渉)、1枚に情報を詰め込みすぎている、手がかりが曖昧——覚えられないカードには設計の原因があることが多く、割り方や書き方を変えるほうが早く解決します。具体的な直し方は暗記カードの作り方の記事にまとめてあります。

Q: 単語帳は最後まで通してから2周目に入るべきか

間隔の観点では、1冊を長い周期で回すより、章やセクション単位の小さい塊で回すほうが再訪の間隔が短くなり、忘れ切る前に戻ってこられます。1冊が終わる頃には最初の章を忘れている、という周回あるあるは、塊が大きすぎるサインです。


出典

詳しい数字と周辺の研究は間隔反復の記事と学習法の格付け研究の記事にまとめてあります。

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