同じカードで何度もつまずく。何度やっても「もう一度」を押してしまう。自分は記憶力が悪いのかもしれない——そう感じたことがあるなら、疑うべきはそこではありません。
覚えられないカードは、たいてい「大きすぎる」だけです。
これは経験則ではなく、間隔反復ソフトの草分けである SuperMemo が1999年に整理した原則に沿った話です。この記事では、カードをどう作れば覚えやすくなるかを実例つきでまとめます。アプリを問わず通用する内容です。
原則:最小情報の原則
最も重要な原則がこれです。
覚えたいことを、できるだけ単純な形にする。
単純なものは覚えやすい。答えが複雑ということは、覚えるべきことがそれだけ多いということです。
そして重要なのが、この原則の裏側です。
同じ知識を、小さなカードに分けて複数持つ方が、大きなカード1枚より効率が良い——なぜなら、それぞれの部品が、それぞれに適した間隔で復習されるからです。
大きなカード1枚だと、中の1箇所を忘れただけでカード全体がやり直しになります。すでに覚えている部分まで、何度も何度も見せられることになります。
悪い例と、その直し方
具体的に見た方が早いです。
例1:詰め込みすぎ
❌ 悪い例
表:フランスについて
裏:首都はパリ。人口約6,800万人。通貨はユーロ。公用語はフランス語。
このカードは、4つのことを同時に思い出せないと正解になりません。1つでも抜ければ「もう一度」です。しかも「フランスについて」という問いは、何を答えればいいのか分かりません。
✅ 直した例
表:フランスの首都は? 裏:パリ
表:フランスの通貨は? 裏:ユーロ
表:フランスの公用語は? 裏:フランス語
4枚に増えましたが、1枚あたりの負荷は4分の1以下です。そして覚えたものから順に出番が減っていきます。
例2:問いが曖昧
❌ 悪い例
表:間隔反復
裏:忘れかけた頃に復習する学習法。エビングハウスの研究に始まり…
用語を見て「説明しろ」と言われても、どこまで言えれば正解なのかが決まりません。自己採点がぶれると、SRS の判定そのものが狂います。
✅ 直した例
表:忘れかけた頃に復習間隔を伸ばしていく学習法を何という?
裏:間隔反復(SRS)
答えが1つに定まる問いにすると、採点で迷わなくなります。
列挙は最も覚えにくい形
SuperMemo の原則の中に 「列挙を避ける」 があります。
❌ 悪い例
表:五大湖をすべて挙げよ
裏:スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖、オンタリオ湖
5つ全部を、しかも順不同で漏れなく思い出す必要があります。1つ抜けただけで不正解になり、永遠に箱1を往復します。
どうしても列挙を覚える必要があるなら、方法は2つです。
① 頭文字などで1つの塊にする
表:五大湖の頭文字をつなげると? 裏:HOMES(Huron, Ontario, Michigan, Erie, Superior)
② 個別に割る
表:五大湖のうち、最も面積が大きいのは? 裏:スペリオル湖
表:五大湖のうち、唯一アメリカ国内だけにあるのは? 裏:ミシガン湖
②は「全部言える」状態にはなりませんが、実際に問われるのは個別の知識であることが多いです。試験でも会話でも、「五大湖を全部言え」と聞かれる場面は稀でしょう。
干渉——似たカードが混ざる
SuperMemo は 「干渉(interference)は、経験を積んだ利用者にとって忘却の最大の原因」 だとしています。
干渉とは、似たもの同士が記憶の中で混ざる現象です。
表:ドイツ語で「月曜日」は? 裏:Montag
表:ドイツ語で「火曜日」は? 裏:Dienstag
表:ドイツ語で「木曜日」は? 裏:Donnerstag
Dienstag と Donnerstag はよく似ています。どちらがどちらか分からなくなる——これが干渉です。カード1枚ずつを見れば問題なくても、セットで見ると混乱します。
対処は3つあります。
| 対処 | 例 |
|---|---|
| 違いを問いに含める | 「ドイツ語で、Do で始まる曜日は?」 |
| 区別できる手がかりを添える | 「Donnerstag(Donner=雷。北欧神話のトールの日)」 |
| 時期をずらして導入する | 似た項目を同じ日に入れない |
3つ目が最も簡単で、効果もあります。混ざりやすいものを一度に入れないだけで、干渉はかなり減ります。
穴埋めという選択肢
一問一答が作りにくい内容には、穴埋めが向いています。
表:日本国憲法の三大原則は、国民主権・基本的人権の尊重・[ ? ] である
裏:平和主義
文脈が残るので思い出しやすく、しかも答えは1つです。文章をそのままカードにできるので、作るのも速い。
ただし穴を増やしすぎないでください。1文に穴が3つあると、結局「詰め込みすぎ」に戻ります。
もう1つ、選択式(○×・N択)にするという手もあります。ただしこちらは向き不向きがはっきり分かれます。選択肢から選べることと、何も見ずに言えることは別だからです——選択肢で解けるのに書けないのはなぜかに整理しました。
文脈を短く添える
答えが一意に定まらないときは、問いに文脈を足します。
❌ 表:pitch → 裏:投げる、音の高さ、傾斜、売り込む…
✅ 表:pitch(野球で)→ 裏:投げる
✅ 表:pitch(音楽で)→ 裏:音の高さ
同じ単語でも、文脈が違えば別のカードにしてよいのです。むしろその方が、実際に使える形で覚えられます。
試験勉強では、何をカードにするか
カードにしてよいのは「答えが1つに定まり、思い出せないと先へ進めないもの」です。 ここを選別しないまま教材を端から入れると、枚数だけが増えます。
| カードにする | カードにしない |
|---|---|
| 用語の定義(答えが一意) | 計算の手順(解いて覚えるもの。手順は思い出すより実行する) |
| 数値・期限・要件(覚えていないと詰まる) | 長文の読解(1枚に入らない。理解のフェーズの仕事) |
| 例外・ただし書き(原則から導けない) | 原則から導けること(1枚の原則カードで足りる) |
| 対応関係(AとBの組・分類) | その場で参照すれば済むもの(一覧表・条文の全文) |
右の列を入れないだけで、枚数は大きく減ります。 特に「原則から導けること」は数が多く、原則を1枚にして事例を落とすのが最も効く整理です。
語呂合わせは、表ではなく裏に置く
語呂合わせを作ったら、それ自体をカードの表にしないでください。思い出したいのは語呂ではなく中身です。
❌ 表:〜〜〜(語呂)→ 裏:その内容
✅ 表:(問い)→ 裏:答え + 小さく語呂
裏に置くと、思い出せなかったときの手がかりとして働きます。表に置くと、語呂を覚えているのに中身が出てこない状態になりがちです。
科目ごとに分ける
複数科目を並行するときは、科目でカードをまとめておくと2つ得があります。ひとつは似たカードの混同を減らせること。もうひとつは、科目ごとに1日の投入量を配分できることです。
⚠️ 1つのまとまりに全部入れると、先に作った科目が枠を食い潰します。 分けておけば、直前期に特定の科目だけ増やす、といった調整もできます。
やりすぎないこと
ここまで「小さく割れ」と書いてきましたが、割りすぎにも副作用があります。
カードが増えれば、そのぶん毎日の復習量が増えます。1つの知識を10枚に割れば、10枚ぶんの復習が毎日発生します。
判断の基準はこうです。
「この1枚は、本当に単独で思い出せる必要があるか」
答えが No なら、そのカードは要りません。入れないことも設計のうちです。
そもそもうまく割れないカードは、内容を理解できていない合図でもあります。そのときはカード作りをやめて教材に戻るのが早道で、理由は丸暗記は意味がないのか——暗記と理解の順序に書きました。
なお、似た内容のカードが2枚あること自体は悪ではありません(SuperMemo も「冗長性は最小情報の原則と矛盾しない」としています)。角度を変えて2回問われることで、かえって定着することもあります。避けるべきは1枚に詰め込むことであって、重複そのものではありません。
チェックリスト
作ったカードを見直すときの5項目です。
- 答えは1つに定まるか(「〜について説明せよ」になっていないか)
- 1枚で問うているのは1つのことか
- 列挙になっていないか(なっていたら割るか、頭文字でまとめる)
- 似たカードと混ざらないか(混ざるなら手がかりを足すか、導入時期をずらす)
- この1枚は本当に必要か(毎日の復習量として払う価値があるか)
同じカードで3回以上つまずいたら、覚え直すのではなく作り直してください。それが最短です。
まとめ
- 覚えられないのは記憶力ではなく、カードが大きすぎることがほとんど
- 最小情報の原則=できるだけ単純な形にする。小さいカード複数の方が、大きいカード1枚より効率が良い(部品ごとに適した間隔で復習されるため)
- 問いは答えが1つに定まる形にする。自己採点がぶれると SRS の判定も狂う
- 列挙は最悪の形式。割るか、頭文字などで1つの塊にする
- 干渉(似たもの同士の混同)は忘却の最大の原因。手がかりを足すか、導入時期をずらす
- ただし割りすぎない。増えたカードはそのまま毎日の復習量になる
この記事について
このサイトは、暗記アプリ RepeCa の開発元が運営しています。この記事の内容はアプリを問わず通用する原則で、特定のアプリの操作手順は書いていません。
原則の出典は、間隔反復ソフトの草分けである SuperMemo の Piotr Woźniak が1999年にまとめた 「Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge」 です。最小情報の原則・列挙を避ける・干渉と戦う、はいずれもここが一次資料になります。
- Woźniak, P. (1999). Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge. SuperMemo.