勉強法の情報は無数にあります。マーカーを引く、ノートにまとめ直す、音読する、教科書を何度も読む——どれも「効きそう」に見えますが、エビデンスの強さはまったく違います。
2013年に発表された研究は、よく使われる10の学習法を横並びで評価し、それぞれに「高・中・低」の格付けを与えました。結果は、多くの人の直感とかなり食い違います。
高評価を得たのは、10のうち2つだけでした。
10の学習法の格付け
Dunlosky らが Psychological Science in the Public Interest に発表した論文(2013年)の評価がこちらです。
| 評価 | 学習法 |
|---|---|
| 高 | 練習テスト(アクティブリコール/検索練習)、分散学習 |
| 中 | 精緻化質問、自己説明、交互学習 |
| 低 | 要約、マーカー・下線、キーワード記憶術、イメージ化、読み返し |
高評価の2つについて、著者らは抄録でこう説明しています(英文からの訳)。
練習テストと分散学習が高評価となったのは、年齢や能力の異なる学習者に等しく効果があり、多様な課題において、さらには実際の教育現場においても成績を押し上げることが示されているためである。
中評価の3つ(精緻化質問・自己説明・交互学習)については、「効果はいくつかの条件を超えて一般化するものの、有効性を示す証拠が限定的であるため高評価には届かなかった」と述べられています。否定されたのではなく、証拠がまだ足りないという位置づけです。
一方、低評価となった5つは、要約・マーカー(下線)・キーワード記憶術・テキストのイメージ化・読み返しです。
注目すべきは、**低評価に並んでいるのが「学生が最もよく使う方法」**だという点です。著者ら自身、マーカーと読み返しを評価対象に選んだ理由として「学生がこれらに大きく依存していると報告しているため、どれだけ機能するかを検証することが特に重要だ」と述べています。
高評価① 練習テスト(アクティブリコール)
「アクティブリコール」「検索練習」「練習テスト」は、すべて同じことを指しています。研究の世界では retrieval practice / practice testing、学習法の解説では「アクティブリコール」と呼ばれることが多い、という違いだけです。
やることは単純で、答えを見る前に、思い出そうとする。それだけです。
- 教科書を閉じて、覚えた内容を白紙に書き出す
- 章末問題を、解説を見る前に解く
- カードの表を見て、裏を見る前に答える
「テストは学力を測るもの」ではない
重要なのは、テストが記憶を測るだけでなく、記憶を強めるという点です。Roediger と Karpicke が2006年に示したのは、文章を学習したあと「もう一度読み直す」群と「テストを受ける」群を比較すると、
- 直後のテストでは、読み直した群のほうが良い成績を出すことがある
- 1週間後には、テストを受けた群が明確に上回る
という逆転でした。この「短期では読み直しが勝つように見え、長期では逆転する」という構図が、次に述べる問題の根っこにあります。
高評価② 分散学習
同じ総量を学習するなら、一度にまとめてやる(集中学習)より、間隔を空けて分ける(分散学習)ほうが長く残ります。
Cepeda らの2006年のメタ分析は254件の研究を統合し、年齢層や材料を問わずこれが成り立つことを確認しました。さらに2008年の研究(1,350人以上が参加)は、最適な間隔がゴールまでの期間に応じて変わることを示しています——1週間後のテストなら期間の20〜40%程度、1年後なら5〜10%程度です。
ここは実務にそのまま効く知見なので、間隔反復(SRS)とはに詳しくまとめました。
なぜ「マーカー」と「読み返し」は低評価なのに人気なのか
低評価の5つに、学生が最も愛用する方法が並んでいる。これは偶然ではありません。
原因は流暢性(fluency)による学習の錯覚です。
教科書を3回読むと、文章がスラスラ頭に入ってきます。マーカーを引いた箇所は、視覚的にすぐ目に飛び込んでくる。この**「スムーズに処理できる」という感触を、私たちは「理解した・覚えた」と取り違えます**。
しかし、スムーズに読めることと、何も見ずに思い出せることは別の能力です。前者は後者を保証しません。
逆に、アクティブリコールはやっていて気持ちよくありません。思い出せずに詰まり、間違え、自分の理解の穴が容赦なく可視化される。手応えが悪いのに結果が良い——だから広まりにくいのです。
主観的な手応えは、学習の効果とはむしろ逆に相関することがある。
思い出すのに少し苦労する負荷が、かえって長期の記憶を強くすることは「望ましい困難」と呼ばれています。楽に感じる勉強法を疑う、というのが実践的な指針になります。
ただし「低評価=無意味」ではない
ここは誤読されやすいので、はっきり書いておきます。
この研究の格付けは、**「効果があるという証拠が、条件を超えてどれだけ一般化するか」**を評価したものです。「低評価の方法には一切効果がない」という意味ではありません。
- マーカーを引くこと自体は、あとで復習する箇所を絞り込む前処理としては役に立ちます
- 要約は、うまく作れる人にとっては有効に働きます(ただし要約の質に大きく依存し、そこが訓練を要する)
- 読み返しも、初回の理解には当然必要です
問題は、これらを学習の「主役」に据えてしまうことです。マーカーを引いて終わり、3回読んで終わりでは、思い出す練習が一度も入っていません。下ごしらえを料理と取り違えている、というのが正確な言い方だと思います。
中評価の3つは、どう使うか
高評価の2つを土台にしたうえで、余力があれば効いてくるのが中評価の3つです。
精緻化質問 — 「なぜそうなるのか」と自問しながら読む。単なる暗記より結びつきが増えます。
自己説明 — 学んだ内容を、自分の言葉で他人に説明するつもりで言語化する。理解の穴が露出するので、アクティブリコールとの相性も良い方法です。
交互学習 — 同じ種類の問題をまとめて解かず、複数の種類を混ぜて練習する。まとめて解くと「いま何の問題を解いているか」が最初から分かってしまい、本番で必要な「何の問題かを見抜く」練習が抜け落ちます。
いずれも「証拠が限定的」という理由で高評価に届かなかっただけで、否定されたわけではありません。
結局、どうすればいいか
10の手法の格付けを一言に圧縮すると、こうなります。
思い出そうとすること × 間隔を空けること。
支持されている2つは、実はこの2軸そのものです。そして厄介なのは、この2つを手作業で維持するのが難しいこと——「どの項目を、いつ、思い出す練習にかけるか」を数百項目ぶん管理し続けるのは現実的ではありません。
だからこそ、カードをめくる形式が理にかなっています。表を見て思い出そうとする(練習テスト)、日をまたいで繰り返す(分散学習)。特別な発明ではなく、支持されている2つをそのまま形にしただけのものです。
具体的な回し方は次の2本にまとめました。
まとめ
- 10の学習法を格付けした研究で、高評価は「練習テスト」と「分散学習」の2つだけ
- 低評価5つ(要約・マーカー・キーワード記憶術・イメージ化・読み返し)には、学生が最も愛用する方法が並ぶ
- 原因は流暢性による学習の錯覚。スムーズに読めることと、何も見ずに思い出せることは別の能力
- 楽に感じる勉強法を疑う。手応えの悪さは、しばしば効いている証拠(望ましい困難)
- ただし低評価=無意味ではない。証拠の一般化の度合いの話であり、下ごしらえとしては有効。問題は主役に据えること
- 支持されている2つは要するに**「思い出す × 間隔を空ける」**。カード形式はこれをそのまま形にしたもの
この記事について
このサイトは、暗記アプリ RepeCa の開発元が運営しています。上の「カード形式が理にかなっている」という結論は、当然ながら自社製品に有利な結論です。そのぶん根拠は独立した研究に置き、格付けは論文の記述をそのまま引いていますので、原典を確認したうえで判断してください。
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin.
- Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing Effects in Learning: A Temporal Ridgeline of Optimal Retention. Psychological Science, 19(11), 1095–1102.